FUEのメリットに一つに、採取株を選択できるというのがあります。通常は仕上がりのボリュームを考えると、大きめのしっかりした毛のグラフトを選ぶことが多いのですが、女性の生え際の最前列の様な場合は、できるだけ産毛に近いものを選びます。単に一本毛というのではなく、襟足近くの軟毛を選ぶのです。ボリュームという点ではコスパは悪く、また生着率は若干低いような気もしますが、許容範囲内ではないかと思います。それよりも今まで(単に一本毛の硬毛を並べる)にない自然さが得られます。
ちなみに、移植は手植えやエアーインプランターでは、毛根が反転したり折れてしまうことが多く難しいため、まず針で移植予備孔をあけ、Choi式ニードルで静かに置いてくる感じです。現在このChoi式ニードルは日本における植毛ではマイノリティな存在ですが、とても優れたツールです。
これも時折議論されることがありますが、一言で言えば一長一短がある、ということです。さらにChoi式ニードルも含めて、私自身も、手術毎にどれをどの程度使うか悩むこともあります。現状、80%はスリット、10%Choi式ニードル、10%ホールといったところです。
ホールの利点は、Choi式ニードルでもそうですが、スリットにおける前後の「余分な隙間」がないため、グラフトがぴっちり収まり出血が少なく、高密度に移植が可能ということです。しかし、まずホールはスリットに比べて皮膚へのダメージは大きく、あまりに高密度にすると、点のはずの傷が面となって治って行くこともあるため用心が必要です。そして、既存毛があるときには、そのすべてを避けてホールを作るのはとても難度が高く、手間がかかる。またChoi式では表皮の巻き込みを起こし易いという欠点もある。スリットはなにか高密度が最も可能なように思われがちですが、実際、スリットで、その前後の「余分な隙間」を繋がらないように高密度にすれば「段々畑」状態となることが多く、可能な限り「ハニカム」で行うと自ずと密度に限界がでる。また、マイクロスリットへの移植はやや熟練を必要とし、下手にやるとグラフトの損傷は大きいため、熟練の技術者は必須です。
20年ほど前は、薄毛の治療は、薬か手術かのような議論もありました。世間はなぜかAなのかBなのかと言う議論がでるのですが、完璧な方法というのはなかなか無く、多くはAとBとの良いところを使うことが最良ではないかと考えています。
切るFUSSと切らないFUEを組み合わせるハイブリッドi-SAFEを始めましたが、今日診察致しました患者様から、刈るスタンダードと刈らないアンシェーブンのハイブリッドはどうなのかと、ご質問いただきました。なるほど、自毛で隠せる範囲の刈り上げからとそれを超えるものはアンシェーブンでという考えは、これもまた合理的で効率のいい方法なんだなと思い、今後はこの方法(ハイブリッドアンシェーブンと呼びましょうか)をメニューに加えたいと思います。
あまり、意識していないせいか、十代でのAGAは無いように思われているのですが、大人になって受診される方の15%がすでに15歳前後で薄毛の発症を感じており、さらにわずかですが、十代前でも発症があるとの統計があります。
(この若年性のAGAとは別に、出生時に母胎の男性ホルモンの影響でAGAパターンをもつベビーがいます、出生後一年ほどで改善しますが、やはり、男性ホルモンの感受性が強い傾向にあり、その多くは将来AGAになるようです。)
AGAの内科的治療の主流は現在、男性ホルモンの作用を一部抑制するタイプの治療であるため、このような十代の生殖器のみならず体幹の成長期には使用できません。これに対して、脱毛を抑制するのではなく、成長を促進することで、薄毛を改善する代替法があります。その一つはミノキシジルです。さらに直接的に作用して副作用の少ない成長因子があります。また、そこまではと考えられてきた植毛も、侵襲の少ない方法が確立してきたため選択肢になりえます。
私のHPでも、一度で行える手術の上限はおよそ4000株(10000本)と記載しているのですが、東洋人において、ある程度AGAが進行しているケースでは、これはなかなか難しく、採取出来ても、手術時間は長く、後頭部の密度感は低くなりがちです。
そこで、多くの方で、この4000株(10000本)以上を手術できる可能性として、一つの解決法は、切るFUSSと切らないFUEを併用するハイブリッド法です。各々で2000株なら、切って縫った傷のテンションも低く抑えることができ、ある程度は気にならない程度の傷跡にできることが多く、採取も効率良く、時間も短縮できるのではないかということです。いくらかの切る方法のデメリットに目をつぶれば、数や時間の恩恵があると考えるのです。
以前、FUSSからFUEへの移行期に、ここまでの数ではないですが、ハイブリッド法を行ったことが何度かあり、経過に問題が無いことは確認済みです。
フィナステリドもデュタステリドも、わずか数ヶ月の連用でもDNAダメージを持つ精子の確率が増加することが最近の研究で判っています。そのようなことは喫煙などでも起こることであり、あまり深刻な問題となることはないのかもしれません。それは実際受精して出産に至るのは正常な精子のことがほとんどであり、DNAダメージを持つ精子は大抵は受精できず、まれに受精しても流産を起こしてしまうからでしょう。それでも出産にまで至れば異常を持ったまま生まれると考えられるのです。また皮膚や精液を介しての吸収程度の濃度で胎児奇形や妊娠異常を起こすことは考えにくく、また実際起こしたという報告もありません。さらに、授乳においても母乳への移行も問題となる濃度ではない(このようなことは喫煙でも同じようなことが言えます)。とはいえ、子供を作る予定のあるときには、事前に服用を中止し、妊娠がわかってから服用を再開するときも、コンドームを3ヶ月目程度までは使用し、さらに他の者の手に触れないよう管理するぐらいの用心があった方が良いのかと思います。(たとえば、不運にも他の原因で何らかの異常が起きたとき、このことが原因だったのではないかと、将来にわたって苛まれることにもなりかねない)万全な状態なんて難しいにしても、心の平安のためにも、用心に越したことはないということです。
薄毛の治療における5ARI(フィナステリドやデュタステリドなど)に対しても、妊娠出産などへの影響がないもので、ある程度は代替できうる成長因子を用いた方法もある訳ですから。
治療で大切なことは、効果の高さだけでなく、いかに副作用や合併症を少なくするかなのです。しかし、現在における薬は、男性型脱毛症AGAにおいてはある程度の結果を出してはいますが、やはり副作用の問題は置き去りのままです。副作用を考える必要のない手術でも材料となる自毛の数には限界があります。
脱毛の抑制
毛髪生育の活発化なら成長因子の投与で可能となってきましたが、脱毛の抑制となるとちょっと厄介です。
毛包にアポトーシスを起こさせ、休止期へと導くものの代表的メッセンジャーは成長因子TGFーβ1ですが、これは主として男性型脱毛症AGAで見られるものです。これに対して慢性休止期脱毛症CTEや円形脱毛AAなどでは、神経ペプチドのサブスタンスPがメッセンジャーとなっているのかもしれません。これらのことが事実なら、脱毛症の対策は、これらのメッセンジャーが受容体に結合しないようにすれば良いことになります。拮抗薬などでブロックできれば、病的に休止期に移行することを避けられると言うことです。ただし、副作用等を考えると毛包の受容体を選択的にブロックしたいところですが、残念ながらこれが現時点では十分に出来ていません。(AGAにおいてはフィナステリドがTGFーβ1が生成されにくくすることで、抑制が可能ではあるのですが、男性ホルモンの作用まで抑制してしまう)
毛包器官の再生医療
毛包器官の元となる細胞を抽出して培養し、それを移植(注入)し、脱毛に強い毛髪を作り出すというものです。問題点は2点、一つは、新たに再生した毛髪も脱毛しないわけではない。元となる細胞の抽出を選択的に行っても脱毛原因はいくつもある。もう一点は、再生毛が乱生してしまうのではないかということです。こちらは、おかしな方向のものは、抜いて植え替えることもできます。
採取部分(多くは後頭部)は、移植に使用する株を、その毛を作る工場毎採取するわけですから、移植部には新たな毛の工場が出来、採取部からは工場がなくなり、採取した箇所からは原則毛は生えませんので、手術での採取量が多くなれば多くなるほど、後頭部分の毛の本数は減ります。
時折、ネットでFUEはFUT(正確にはFUSS)に比べて、採取部がスカスカになりやすいという情報が流れていますが、その情報にはあまり合理性を見出せません。
FUTがスカスカになりにくい理由に、頭皮の伸展性の高さをあげてあったりします、すなわち、縦を2センチほど切り取って詰めても、その程度は皮膚が伸びて補ってくれるため密度の低下がおきにくいとあるのです。
伸展性による変化を2つに分けて考えてみましょう。
1,採取部分の上下から伸びて、減少部分を吸収する。
2,採取部分の範囲だけの伸びで減少部分を吸収する。
まず、1ですが、見方を変えれば、これは採取部分の面積が減少するということなります。すなわち、うなじは上昇し、つむじは下降するわけです。髪が多い部分の密度やボリュームの変化は少ないが、その面積は減少することになります。困るのは、うなじが上がるのもやや不自然ですが、特につむじが薄い方の場合はその範囲は広がり下がる訳ですから、後ろから目立つようになってしまいます。
2では、毛穴と毛穴の間隔が開いているか、または切除縫縮した傷跡が目立つことになります。つまり一定の面積のなかで、本数が減少しているのですから、密度は当然少なくなっている。それでも、同一移植株ではFUEがボリューム(密度ではありません)の低下がFUTに比べ多くみえるのは、実際に採取している毛の本数(株数ではなく)と太さの平均値が違うためです。すなわちFUEにおいては、移植部での効果効率を考え、比較的、毛穴当たりに本数が多いもの、また太い毛のものを選択的にとることが多いのですが、FUTではそれは出来ません。あくまで平均値にしか過ぎず、同じ株数の手術でも移植部での効果は圧倒的にFUEが高くなるのですが、それに比例して、採取部ではボリュームが少なくなると言うわけです。もちろん、FUT程度の平均値で採取すれば、その変化は変わらないことになります。
また成長因子話題ですが。
ヒト皮膚幹細胞培養液やヒト繊維芽細胞培養液には様々な成長因子や酵素、SOD、コラーゲンやケラチン等の細胞外マトリックス成分が豊富に含まれており、これより、より目的に合うように精製していきます。
しかし純粋にヒト成長因子(FGF-7、VEGFなど)を作ろうとすれば、大腸菌を用い遺伝子工学的に作らせることになりますが、成長ホルモンやエリスロポイエチン同様、比較的高価です。
この二つの方法って、光脱毛での、レーザー方式とフラッシュライト方式に似てますね。フラッシュライト方式では、様々な波長の光から目的に合った光をフィルタリングすることが大切ですが、培養液からつくる成長因子でも同じことがいえます。

挿絵はhttps://www.anti-ageing.co.jp/より
PRP(多血小板血漿注入療法(Platelet Rich Plasma))もまた、血小板が放出する様々な成長因子GFを利用した方法といえます。PRPはワンショットで使用するものであり、継続的使用が出来ないため創傷治癒や移植片の生着などの急性期には有効であるかもしれません。ただ、成長因子を選べてないところが気にはなりますね。
AAPEもヒト脂肪細胞由来幹細胞を培養して得られる種々の成長因子を含むタンパク質。(これを使ってるのがHARGです、多種の成長因子が含まれることを売りの一つにしていますが、それは望まない効果の成長因子を含むかもしれず、また逆に望むものの量が少ないとも言える、またこれを月に1~2回局所注射して謳ってる効果が出るとは考えにくいです。)
フィブラストスプレー 主成分トラフェルミンは遺伝子組み換えで作成されるヒトbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)製剤、創傷(火傷、褥瘡等)治癒促進の目的で使用されています。さすがに遺伝子工学的に作られている医薬品ですので高価です。費用対効果はどうでしょうか。
ほんの10年前は、自毛植毛といえば、切ったり、または大きなパンチでくり抜いたりそして縫ったりと、あまりスマートとはいえない、侵襲も大きく、ちょっと大変な手術が普通で、私も10年以上その方法でやっていました。それに対してFUEに分類される方法は、シンプルで侵襲も少なく、患者さんにとってずいぶん楽な手術であり、様々なアイデアの元、さらに洗練されて、現在では世界的にも主流となりつつあります。
しかしFUEでの患者さんにとっての新たな問題は、採取部分を大きく刈り上げる必要があることです。隠すためのアイデアはいくつかありますが、求められることは、刈らないままで採取をしてということです。そして、これこそ、究極の自毛植毛として、グローバルスタンダードになるべきものと考えています。そして、当院でも患者さんの特別申し出がない場合は、アンシェーブンで行けるようになれたらと計画しています。

