- なぜ植毛した生え際は不自然なのか
多くの教科書や一般的な植毛手術では、生え際ヘアラインを、男性では一直線かジグザグの線で、女性では丸い半円のような線を描こうとします。しかし、現実の人間において、そのような「図形的なライン」は存在しません。 他院での術後に感じる「言いようのない違和感」の正体は、そこに解剖学的な必然性が欠落しているからに他なりません。


女性の丸刈り(引用元;Pintrest)
典型的な生え際
- 生存戦略としての「表現の窓」
動物学的な視点に立てば、ヘアラインの位置には明確な理由があります。人間を含む動物にとって、表情は生存に関わる極めて重要なコミュニケーションツールです。
- 愛情の伝達: 相手に信頼や愛着を伝えるためには、顔の筋肉の動きが隠されてはいけません。
- 争いの回避: 表情で威嚇し、無用な戦いを避けることもまた生存戦略です。 つまりヘアラインとは、脳を保護するために厚い毛が必要な「頭部」と、感情を露わにするために隠したくない「表情筋」との、合目的的な境界線なのです。
- 「動く部分」にこそ生え際の毛がある
解剖学的に見ると、ヘアラインのデザインは「動き」と密接に関係しています。
- 静の部分: 帽状腱膜(ぼうじょうけんまく)に覆われた、動きの少ないエリアには太く強い髪が生えています。
- 動の部分: 表情筋(前頭筋など)が激しく動くエリアとの境界にこそ、いわゆる「生え際」が位置します。 動きのある皮膚の上に、動かない組織のような「密度の壁」を作ってしまえば、表情を作った瞬間に不自然さが露呈します。生え際のデザインには、この筋肉の走行と連動する「遊び」や「ゆらぎ」が不可欠なのです。
- 素材の必然性:なぜネイプヘア(襟足の毛)なのか
デザインが正しくても、素材選びを間違えれば台無しになります。よくある「普通の毛の中から細い1本毛を選んで植える」という手法には、生物学的な嘘があります。
- 成長の真実: 普通の髪は、たとえ採取時に細くても、植えられた後に本来の設計図に従って太く成長してしまいます。
- ネイプヘアの価値: 生え際に相応しいのは、一生細いままであり、毛周期の短い「成長しても細い短い毛」です。このネイプヘアを、筋肉の動きに合わせて配置して初めて、天然の生え際が持つ「透け感」と「柔らかさ」が再現されます。
- 模倣を超えた「知的なデザイン」へ
ここ数年、私の提唱してきた「自然なライン」を真似たようなデザインをみることがあります。しかし、筋肉の構造や毛質のポテンシャルを理解せず、ただ形だけを模倣しても、そこには不自然さが残ってしまいます。
植毛とは、限られた毛包資源をどこに配置して最大の効果を得るかという、高度に知的なパズルです。 患者様の希望を第一にしつつも、解剖学的な裏付けを持って「そこにその毛があるべき理由」を突き詰めること。それこそが、自然な生え際の再現となるはずです。
Q:人工毛移植を10年来してきたため、かなりボコボコしておりますが、このような状態でも自毛植毛は可能でしょうか?
A:人工毛が残っていると、異物反応や感染を繰り返しているため、もともと生えているはずの毛まで生えない状態となっています。この状態では自毛移植してしても生えにくいので一旦根っこから抜いてしまう必要があります、人工毛の根っこはクリニックよって形状が異なっているため、抜去は人工毛をいれたクリニックで行うのが一番確実なことが多いですが、どうしても無理なら当院でも可能です。抜去と同時に同一箇所への移植はあまりおすすめできません。抜去後1ヶ月程度はあけていただいたほうがいいと思います

多くのクリニックで1本毛なるものを得ようとすると、1本毛自体がとても少ない、あるいは取れにくいため多くの場合最小単位であるFU株を更に細かくして作成するわけですが、この作業がかなり株をいためて生着不良の原因となります。 そこで当院では、あまり小さい毛が取れにくいときには、例えば3本毛から1本だけを採取することがあり、 これだと、株に触れる時間はとても短く、触れることによるダメージをなくすことが出来るだけでなく、残した2本も一時的には脱落しても、3ヶ月後には2本毛が出てきてその採取傷跡を隠してくれます。 これをスプリット採取と呼んでいるのですが、スプリット採取した株の生着に遜色はないようなので、最近はその割合が多くなった気がします。 実際生え際やや奥でも3本毛以上はやはり大きすぎる気がしますで、そこでスプリット採取を使い大きさを調整しています。欠点は、多少手間がかかる程度なのですので。
高密度移植(80株/cm²)が可能な方は、皮脂が少なく、傷の治りに問題がなく、皮膚が健康な状態であることは必要条件です。 これがないと、この高密度 移植、ニードルやマイクロスリットを使ってもリッジという盛り上がった傷跡を作りやすく、これが生着不良の原因ともなり、反ってスカスカになることがあります。 このようなリスクの説明と条件が整ったときに、そして希望があったときに行いますが、そこで使う材料こそネイプヘアです。 これをトリミング、場合によっては更に株分けして、とてもスキニーな株をつくり、これを針穴に入れていきます。ただし、現在ネイプヘアや体毛をほぼ損傷なく採取できるのはi-SAFEのみかもしれません。
生え際丸く、額を狭く、M字こめかみ部分がネイプヘア
中央は、おもに通常の1本毛
大きく分けると次の2つになります。 1,男性的な生え際 2,女性的な丸いおでこ いずれにせよ、おでこを狭くは、とても慎重に行う必要があります。特にそのデザインと密度です。 デザインでよく見かけるのは、意味もなくギザギザにしたものですが、一直線はおかしいので、自然に見せたいという気持ちはわかります。 しかしそういう生え際は本来なく、この時点で変だなと感じてしまいます(マルコと呼んでいる)。
2においては、さらに、そのデザインの重要性は高まります。 ただ、丸くしただけでは、先ほどのギザギザや一直線と同じで、異様な感じがしてしまいます。
前頭部にある筋肉の構成にしたがって、科学的・解剖学的根拠のもと、デザインされるべきです。 また、使う株のタイプ別の分配もまた、デザインの1つとなります。 最前列は、ただ単に1本毛を植えるのではなく (これは良く勘違いされて手術されていて、太い1本毛でも、女性の生え際には不自然です)、 産毛に近い細い毛髪を選び、その奥では1本毛を中心とした普通の太さのもの、さらに奥では2本毛を中心にと分配してしていく必要があります。 生え際に大きいサイズの株を用いて、移植株数わりにボリュームのある手術をみかけることはが多いですが、これは、言い換えると、ボリュームのわりに地肌がすけており、それ以前に見かけが極めて不自然です。 これは可能な限り避けるべきことです。
実際ここまで用心しても、本来の女性の生え際を実現できるわけではないですが、その神のなせる域に一歩でも近づきたいという気持ちが、植毛をする医師には必要です。 ついで、重要となるのは、密度です。もちろん元と同じ密度が最も理想ですが、いくつか問題があります。 その一番は、傷跡です。 移植に必要な穴ですが、通常のスリットやマイクロホールでは、ダメージは大きく、 本来「点」で治るべき傷が、あまりに高密度で植えると、単に生着率が低下するというだけでなく、 周囲への影響が重なり合って「面」として治り、傷跡(リッジと呼んでいる)として見えてしまうことがあります。 したがって、まず考えるべきは、最初の穴の大きさとそのエッジです。 当院が使用しているものは、マイクロスリットまたはニードルですが、これはかなり小さくここに毛を入れることそのものが高度の技術と時間を必要とします。 下手に行えば、生着不良の結果となることもあるため、どこでもすぐに手を出せる方法ではないので、当院の最大の売りともなっています。 では、どこまでならいいのかは、個人差があるため一概には言えませんが、おでこの場合は、40~50株/平方センチメートル程度は安全なことが多く、逆にこれを下回ると、スカスカで、1回での満足は得にくいでしょう。
生え際のラインを決定するときに、多くの医者は、「だいたいこんな感じ」というかなりアバウトな方法で決定しているのではないでしょうか。 仮に何らかの決め方があっても、それが理にかなっているものであると思えたことはありません。 ラインをジグザグにしたり、スネークトレイル(ヘビが通った跡)などともっともらしいことを言っても、その科学的根拠について答えられる人はいません。
多くの科学的事象を説明するときに使われるのは、合目的的に考えるという手法です。 この生え際もまた、この手法で説明できます。詳細は省きますが、顔面の表情筋群、帽状腱膜をもとに、なぜ部位によって毛が長くなったり短くなったりする必要があったのか、さらにはどうしてAGAが起こるのかと考えるところから、そのラインが見えてきます。 決して絵を描くように作るのではなく、科学的根拠を持って作るからこそ、自然なラインが得られるのです。

