毛包部位固有の毛周期を刻む時計の正体は

  1. 時計の本体:毛乳頭細胞の「クロマチン・アクセシビリティ(開放度)」

時計は、毛乳頭細胞(DP)の核内にある、特定の「成長期維持遺伝子領域」の状態(形状)そのものです。

毛周期を刻むメカニズムは、砂時計のように何かが「溜まる」のではなく、「開いていた本(ゲノム)が、時間とともに自然に閉じていく(ヘテロクロマチン化)」プロセスだと考えます。

  • 物理的な「刻み」: 成長期が始まると、Wnt系などの成長因子を出すためのDNA領域が「全開」になります。しかし、この領域には「一度開くと、転写の回数や時間経過に伴って、物理的に閉じていく」というエピジェネティックなバネが仕込まれています。
  • 「時間」の計測: 本が完全に閉じ、シグナルが出せなくなった瞬間が「成長期の終わり」です。これが部位固有の時計のベースです。
  1. 5αR-DHT-AR は「時計のギヤ比(倍率)」を調整する変数

このシステムは外部からの「攻撃」ではなく、時計の進み方を定義する「OSの設定」の一部です。

胎生期に決まるHox遺伝子(位置情報)が、その部位の「AR(アンドロゲン受容体)」がどの遺伝子領域にアクセスするか、という「マスターキー」を決定しています。

  • 前頭部・頭頂部: DHT-ARは、前述の「アナゲン維持の本」を力ずくで閉じる(メチル化を促進する)側に働きます。本来5年かけて閉じるはずの本を、数ヶ月で閉じさせてしまう「加速装置」です。
  • 髭・体毛: 同じDHT-ARが、別の領域では「本を開いたまま固定する」側に働きます。

つまり、5αR システムは、部位ごとの「時間の流れ方」を肉体的な性熟成に合わせて最適化するためのモジュレーター(変調器)なのです。

  1. なぜ「固定化」が起きるのか(AGAの不可逆性)

時計が単に「早く回る」だけなら、原因を取り除けば戻るはずです。しかし戻らない。それは、時計が回るたびに「エピジェネティックなサビ(不可逆的なメチル化)」が蓄積されるからです。

  1. サイクルの圧縮: DHTによって「本の開閉」が高速化される。
  2. 情報の劣化: 本を閉じる際、本来なら「また次も開けるように」綺麗に畳むはずが、高速すぎて「二度と開かないようにノリ付け(高度なメチル化)」されてしまう。
  3. 固定化: 「エピジェネティックな固定化」です。文字盤自体が物理的に固まり、OS($55αRの設定を後から変えても、針が動かなくなります。

 

投稿者プロフィール

井上 浩一
井上 浩一アスク井上クリニック 院長
経歴
1988年 熊本大学医学部卒業
熊本大学医学部付属病院 勤務
1989年 某大手美容整形外科クリニック 本院勤務
1998年 都内美容外科クリニック 院長就任
2002年 米国での自毛植毛研修を経て、植毛クリニック開院
2006年 某大手植毛クリニック 院長就任
2014年 アスク井上クリニック 開院