女性ホルモンによる発毛治療は効果ありますか?

女性ホルモンとはエストロゲンかとおもいますが、これへの回答にはまず、エストロゲンが何者なのかを知っていただく必要があります。

エストロゲンは全方向で生殖に向いている

エストロゲンの本質は、個体の生存よりも「次世代への継承」に資源を投じる戦略にあります 。自己を強化するテストステロンに対し、エストロゲンは「非自己(胎児)」を受け入れ、育てるための環境作りを全方位で実行します 。

  1. 受容体とアロマターゼの戦略的配置

エストロゲンは、場所によって異なる受容体を介して多角的な任務を遂行します 。

アロマターゼはテストステロンからエストロゲンを作り出す酵素です。

特徴

ERα

ERβ

GPER (GPR30)

アロマターゼ

主な場所

子宮、乳腺、肝臓

卵巣、前立腺、大腸

血管、心臓、膵臓

卵巣、脂肪、脳、骨

主な機能

生殖機能、増殖、代謝

調節、抑制、分化

迅速な反応、血管保護

エストロゲンの局所合成

  1. 二つの応答経路による制御
    • ゲノム経路(遅い反応): 細胞の核に直接働きかけ、保水タンパク質や脂肪取り込み酵素などを数日かけて製造します 。肝臓でアンギオテンシノーゲンを増やし、水分を溜め込むのもこの経路です 。
    • 非ゲノム経路(速い反応): 細胞膜の GPER などを介し、血管拡張や代謝の微調整を行います 。
  • ここからいえることは:そもそもエストロゲンの目的生殖において毛髪や皮膚は重要度が少ないため、毛髪皮膚への効果を感じる前に重要度が高い部分で副作用がでる

  • 男性への投与: 男性がエストロゲンを摂取すると、乳房の女性化、性機能の低下、筋力の低下などの女性化現象が強く現れます。そのため、男性のAGA(男性型脱毛症)治療にエストロゲンが使われることはまずありません。
  • 女性への投与: 不正出血、乳房の張り、吐き気などのほか、長期間の全身投与は次のような生命維持に関わる深刻な副作用すら現れる可能性をもってます 。
    • 最大のリスク(血栓症): 月経や出産での出血を速やかに収束させるための準備として、肝臓に作用して血液凝固因子を増やし、阻止因子を減らすため、血栓(VTE)を作りやすくなります 。
    • ガンの脆弱性:胎児はガン以上に「非自己です」それを排除させないシステムをガンが利用します。つまり 胎児という「非自己」を守るための免疫抑制特性が、なんと皮肉にもガン細胞の排除を妨げ、増殖を助けてしまいます 。

     

 

ついでにもう一つの女性ホルモン プロゲステロンそのほかについてみてみましょう

 

■エストロゲンとプロゲステロン

この二つは、生命継承プロジェクトにおける「企画担当(エストロゲン)」と「実務管理担当(プロゲステロン)」の関係にあります 。エストロゲンが作った土台を、プロゲステロンが完成させます 。

  1. 「開拓」と「整備」の協調

項目

エストロゲン(開拓・アクセル)

プロゲステロン(整備・ブレーキ)

子宮内膜

厚く増殖させる(増殖期)

血管を巡らせ、栄養を貯める(分泌期)

受容性

非自己(精子・胎児)を受容する

妊娠を維持し、他の侵入を拒む

乳腺

乳管を伸ばし発達させる

乳腺胞(袋)を成熟させる

代謝

体温を下げる

体温を上げ、燃焼モードにする

  1. エストロゲンの暴走を止める「ブレーキ」機能

プロゲステロンは、細胞のエストロゲン受容体(ER)の数を減らす(ダウンレギュレーション)ことで、過剰な増殖やがん化のリスクを抑制します 。このバランスが崩れる「エストロゲン優勢」の状態は、むくみやがん進行のリスクを高めます 。

 

性ホルモン生成の相関関係

コレステロール → プレグネノロン

                                                        ↓

                 DHEA  ← プロゲステロン

     ↓

        テストステロン

     ↓

        エストロゲン

①コレステロール生成阻害薬(HMG-CoA還元酵素阻害薬)スタチン

スタチンは「ホルモンを作る工場」の部品供給( mevalonate 経路)を一部阻害しているのは事実です。しかし、人体には「外から材料を調達する」および「脳からの司令で生産ラインを調整する」というバックアップ機能があるため、結果としてコルチゾールや性ホルモンの全体量が枯渇することはない、と言えます。

 

②「プレグネノロン・スティール(強奪)」: 強いストレス下では、体は生存を優先してプレグネノロンを「コルチゾール(ストレスホルモン)」の生成に回してしまいます。その結果、DHEAや性ホルモンの生成が後回しになり、性欲減退や更年期症状の悪化を招くことがあります。

③バランスの依存: エストロゲンとプロゲステロンは互いに拮抗(バランス調整)し合う関係にあり、一方の過剰や不足はもう一方の働きに影響を与えます

 

前駆体補充療法

①DHEAの内服

DHEAは内服することで、性ホルモンの原料として明確に機能します。

  • 変換効率: 経口摂取されたDHEAは肝臓で代謝され、体内でテストステロンやエストロゲンへと変換されます。
  • 効果の現れ方: 特に更年期以降の女性において、血中のテストステロン値やエストロゲン値を上昇させることが多くの研究で示されています。男性でも数値の上昇が確認されることがありますが、女性ほど顕著ではない場合もあります。
  • 用途: 不妊治療における卵胞の発育促進や、更年期症状の緩和などを目的として医療機関で処方されることがあります。

② プレグネノロンの内服

プレグネノロンの内服は、性ホルモンの数値を高める効果については限定的(または不明確)です。

  • 変換の不確実性: 理論上はすべてのステロイドホルモンの原料(マザーホルモン)ですが、経口摂取した場合、その多くは性ホルモンに変わる前に他の代謝経路(プロゲステロンなど)へ流れたり、そのまま排泄されたりしやすいため、血中のテストステロンやエストロゲンを劇的に増やすという確実な証拠は乏しいのが現状です。
  • 主な注目点: 現在は性ホルモンの増量よりも、脳内で働く「ニューロステロイド(脳内ホルモン)」としての、記憶力維持や気分の安定、抗ストレス効果などの側面で注目・利用されています
ホルモン補充療法VS前駆体補充療法
 
① 前駆体(DHEAなど)はリスクが低い?
最大の理由は、「体の自己調節機能(フィードバック機構)」を尊重できるからです。
自律的な変換プロセス
直接ホルモンを補充するのは、いわば「完成品」を外部から大量に搬入するようなものです。対して前駆体の補充は、工場に「原材料」を届けることに似ています。
•過剰投与のリスク軽減: 体は必要な分だけを前駆体から各ホルモン(エストロゲンやテストステロン)に変換しようとします。そのため、血中濃度が急激に跳ね上がるスパイクが起きにくく、副作用をコントロールしやすいのです。
•自前の製造ラインを止めない: 外部から完成品が入ってくると、脳は「もう十分ある」と判断し、自分の体でホルモンを作るスイッチを切ってしまいます(性腺軸の抑制)。前駆体の場合は、この「製造停止命令」が出にくいとされています。
 
②前駆体(DHEA)自体の「直接的な作用」
DHEAは単なる「材料」に留まらず、それ自体が**「ニューロステロイド(脳で働くステロイド)」**などとして、全身で独自の仕事をこなしています。
脳・メンタルへの作用
DHEAは脳内の受容体に直接結合し、以下のような効果をもたらすことが示唆されています。
•抗うつ・抗不安作用: 神経伝達物質(GABAやグルタミン酸など)の働きを調整し、気分を前向きにする。
•認知機能のサポート: 記憶力や集中力の維持に関与する。
免疫・代謝への作用
•免疫の調整: 炎症を引き起こす物質(サイトカイン)を抑え、免疫バランスを整える。
•インスリン感受性の向上: 血糖値のコントロールを助け、代謝をスムーズにする。
•骨密度の維持: 性ホルモンに変わる前段階でも、骨の代謝に直接関わっていると考えられています。
 
③. 知っておくべき「注意点」
リスクが低いとはいえ、「ゼロ」ではないのが医学の難しいところです。
•変換先のコントロールができない: 材料を渡した後、体がそれを「筋肉を作るテストステロン」にするか、「脂肪を溜めやすくするエストロゲン」にするかは、その人の体質や酵素のバランス次第です。意図しない方向に変換される(例:女性でヒゲが濃くなる、男性で胸が膨らむ等)可能性は否定できません。
•ホルモン依存性疾患への影響: 前立腺がんや乳がんなど、ホルモンによって増殖する病気がある場合は、前駆体であっても慎重な判断が必要です。

 

特徴

直接補充(HRTなど)

前駆体補充(DHEAなど)

効果の発現

早くて強力

緩やかでマイルド

安全性

厳密な医師の管理が必要

比較的リスクは低いが個人差あり

体の機能

自前の製造が止まりやすい

自前の調整機能を活かせる

主な目的

欠乏症の治療

未病、活力向上、エイジングケア

 

 

投稿者プロフィール

井上 浩一
井上 浩一アスク井上クリニック 院長
経歴
1988年 熊本大学医学部卒業
熊本大学医学部付属病院 勤務
1989年 某大手美容整形外科クリニック 本院勤務
1998年 都内美容外科クリニック 院長就任
2002年 米国での自毛植毛研修を経て、植毛クリニック開院
2006年 某大手植毛クリニック 院長就任
2014年 アスク井上クリニック 開院